八千草薫さんが死去 「寅さんに恋したマドンナ」千代役を振り返る
女優の八千草薫さんが24日、東京都内の病院で膵臓がんのため亡くなった。88歳だった。八千草さんは、宝塚歌劇団に入団し、1951年に映画デビュー。退団後はテレビドラマにも活躍の場を広げて『岸辺のアルバム』など数々の名作に出演した。
■幅広い世代に親しまれた
宝塚音楽学校を経て47年に宝塚歌劇団入団した八千草さん。劇団内に設けられた映画専科に所属し、宝塚在籍中から映画との関わりを深めていった。
在籍中には三船敏郎さん主演の『宮本武蔵』や『蝶々夫人』に出演。57年に退団後は『阿修羅のごとく』など多くの話題作に出演した。とくに72年公開の映画『男はつらいよ 寅次郎夢枕』では寅さんに恋したマドンナという珍しい役どころだった。
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■新しいマドンナ像
今年、久々の新作が公開される「男はつらいよ」シリーズ。車寅次郎(演・渥美清さん)がマドンナに恋して破れる定番のパターンは多くの人が知るところだ。しかし中には寅さんに恋をするマドンナも存在していた。それが八千草さん演じる志村千代だった。
寅さんの妹・さくら(演・倍賞千恵子)と幼馴染みの設定。再会するとたちまち恋をしてしまう。離婚して、子供と離ればなれとなった千代の寂しさを、紛らわそうとする寅さんの奮闘努力。
千代に恋する岡倉の存在などもあったが、今までにない展開があった。八千草が絶妙な表情で演じぬいたプロポーズのシーンだ。
■シリーズ屈指の名場面
上品で清純、おっとりとした陽だまりのような笑顔。作中で存分に魅力を振りまいたが、もっとも盛り上がったのはプロポーズのシーンだった。岡倉の気持を知った寅さんは千代に代理で告白するが、千代は寅さんからのプロポーズと勘違い。承諾してしまうのだ。
このシーンで寅さんからのプロポーズだと思い、いじらしい表情そして照れながらも喜ぶ表情と代理プロポーズだと知った後の失意の微笑み。難しい状況を見事に演じ、インパクトを残した。
「私ね、寅ちゃんと一緒にいるとなんだか気持ちがホッとするの」という台詞はシリーズ屈指の名セリフとして語り草になっている。八千草ンの訃報を受けて真っ先にこのシーンが浮かんだという声もツイッターにもあった。
数あるシリーズの中で、たったワンシーンで忘れられない存在感を放った八千草さん。残念ながらこの世から旅立ってしまったが、作品は残り続け新たなファンを獲得し続けるだろう。